なぜ超量子もつれが次のゲームチェンジャーか

まず量子もつれとは何でしょうか?
量子もつれ(エンタングルメント)とは、離れた粒子同士があたかも見えない糸でつながっているかのように状態が連動する現象です。
たとえば一方の粒子の状態を測ると、もう一方の粒子の状態も瞬時に決まります。
その様子はまるで遠く離れた双子が同じタイミングで同じ行動をとるような不思議さで、アインシュタインが「遠隔幽霊作用」と呼んだほどです。
従来の量子もつれでは一種類の性質(自由度)についてのみ相関が生じます。
典型例はスピン(粒子の持つ微小な磁石の向き)のもつれで、一方が上向きなら他方は下向き、といった具合です。
ところがハイパーもつれ(超もつれ)では、複数の性質にまたがって同時にもつれが生じます。
これは言わば二重の絆です。
一組の粒子ペアが「二人とも名前が同じうえに車のタイプまで同じ」ような、二つの特徴がリンクした双子状態になるのです。
別の比喩をすれば、遠く離れた二人が不思議にも同じ色の青い靴下を履いているようなものだとも言えます。
たとえ片方の靴下は木綿でももう片方はウールだとしても、色という属性だけはピタリと揃っている──そんなイメージです。
実はこのように「情報の素材が違っても特定の性質を共有する」ことこそ、量子もつれの醍醐味であり、量子技術の鍵となります。
ではなぜ超量子もつれが重要視されるのでしょうか?
理由の一つは、一組の粒子から得られる情報量を飛躍的に増やせるからです。
エンタングルメントが一種類ではなく二種類あるということは、実質的に一対の粒子で二組分のもつれを持つようなもので、量子コンピュータで扱える量子ビット数が倍増する効果があります。
また超量子もつれ状態は、量子通信におけるスーパーデンスコーディング(1対の粒子で通常の2倍の古典情報を送る手法)や、離れた場所で複数の量子リンクを一度に確立する高度な通信プロトコルにも応用が期待されています。
しかし、これまで超量子もつれの実証は主に光子(光の粒)でしか成功しておらず、質量を持つ原子やイオンといった物質系では達成されていませんでした。
原子同士で複数の自由度にもつれを実現するには、極めて精密な制御技術が必要だからです。
今回カルテックの研究グループは、そうした技術的ハードルを乗り越え、「原子の内部状態」と「原子の運動状態」を同時にもつれさせる初の実験に成功しました。